講談社の漫画雑誌『イブニング』が2023年2月28日発売の最終号をもって休刊しました。『モーニング』の別冊としてスタートし、刊行ペースを月1回から月2回へ移行しつつ社会派路線と作家性の両立させた独自色を確立。ヒット作を多数生み出しました。
今回は、『イブニング』の歴代連載作品を10作ご紹介します。アニメ化もされた『もやしもん』や『いぬやしき』から、山本直樹やいがらしみきおといった個性的な作家まで、幅広い名作をふり返ってみましょう。
目次
『イブニング』が生んだ大ヒット漫画3選
『イブニング』の中でも特に人気を博した3作品をご紹介致します。
もやしもん(全13巻完結)
『イブニング』の大ヒット代表作!
菌が「視える」主人公・沢木惣右衛門直保が農大を舞台に繰り広げる、菌たちとのゆるくて濃密な日々を描いた漫画です。
2007年10月から12月までフジテレビのノイタミナ枠にてテレビアニメが放送され、2010年には実写ドラマ化もされるなど、絶大なヒット作となりました。欄外に書き込まれた膨大な知識が、読者も発酵オタクに迎え入れてくれます。「シュールストレミング」「ホンオフェ」など、クセのある料理を本作で知った方も多いのでは?
菌にまつわる知識だけでなく、モラトリアムな大学生活の描写も魅力の一つ。少し変化球の大学漫画を読みたいという方にもおすすめです。
いぬやしき(全10巻完結)
奥浩哉による本格ハードSF&バトル!
ようやく一軒家を手に入れた冴えない58歳の中年が、突如がんで余命を宣告されることに。しかし、空から謎の物体が飛来したことをきっかけに、全身サイボーグとなり、起死回生の復活を遂げます。
SF的異常事態をディテールたっぷりに描くのが奥浩哉作品の魅力ですが、本作は狭い世間を丹念に描き、その間にギャップを生み出しているのが本作での読み味になっています。『GANTZ』の奥浩哉による新作として話題を呼び、2017年にテレビアニメ化・2018年に木梨憲武と佐藤健主演で実写映画化もされました。
リアルな心理描写とぶっ飛んだ豪快なアクション。独特な怪作! と叫びたくなるような作品です。
少女ファイト
他人を恐れて引きこもりがちな主人公が、バレーボールへの情熱を取り戻していくスポーツ漫画です。女子運動部のドロドロしたいざこざの中で、バレーの才能を発揮していく主人公の姿にアツくなります。一癖も二癖もあるキャラクターたちとの人間関係が魅力的です。
とにかくアツいスポ根漫画を読みたい方にぜひおすすめです! 『イブニング』休刊後もWeb連載が続く予定です。
硬派な社会派路線が魅力の漫画3選
綿密な取材に基づくドキュメンタリータッチが話題を呼んだ作品、大御所作家による重厚な筆致の作品をご紹介致します。
レッド 1969〜1972(全8巻完結)
ドキュメンタリータッチで描かれる、あさま山荘への道程!
1960年代に若者が世界を変えようと革命運動を起こす中で、ある団体が内ゲバで多くの死者を出しました。その団体が連合赤軍です。本作は、山岳ベース事件・あさま山荘へ至ることになる若者たちの青春を描いた群像劇漫画です。
圧巻の漫画表現を用いて冷徹に日本の革命運動に迫るのは、ベテラン作家・山本直樹。「やがて死亡するキャラクターには、死亡順に番号を振って運命を明示する」という斬新な演出が、時代の狂気と若者の情熱を同時に際立たせます。完結までに12年間を要したことが信じられないほど、一息で読んでしまうこと間違いなしです。
リウーを待ちながら(全3巻完結)
キルギスに派遣された自衛隊が吐血し、同時期に同じ症状の患者が相次いで死亡。病院と街はパニックになります。閉鎖される街で、主人公の医師が奮闘するリアルな医療漫画です。
実際に起こったことを描きだしたかのように感じる緊迫感や主人公の孤軍奮闘ぶり、感染者たちが直面する隔離生活の姿に2020年前後の日々が逆説的に思い出されます。コロナ禍以前の2017年に刊行されていながら、さまざまな現在の状況を予見していたとして話題になりました。
本格的な医療漫画を読みたい方にぜひおすすめの作品です。
羊の木(全5巻完結)
政府の極秘プロジェクトによって、凶悪犯罪を犯した元受刑者がとある地方都市に11人もやって来ることになりました。地域の住人たちは不安感に包まれますが、混乱を巻き起こしていたのは……!?
『がきデカ』『喜劇新思想大系』の山上たつひこを原作に、『ぼのぼの』のいがらしみきおが送る異色犯罪サスペンス漫画です。絶妙な不気味さを軽く読ませる、いがらしみきおの作画力に唸らされます。本作は『フリースタイル』の特集記事「THE BEST MANGA 2013 このマンガを読め!」で9位を獲得するなど人気を博しました。また、2018年に吉田大八監督が錦戸亮を主演に迎え、実写映画化もされています。
個性派ぞろいの魅力あふれる作品4選
「あの作家が、こんな題材で連載を!?」と思わず驚いてしまいそうになるのも、イブニング連載作品の特徴でした。ここではそんな4作品をご紹介します。
たたセン〜からめる先生の奇妙な課外授業〜

たたセン〜からめる先生の奇妙な課外授業〜(1)【期間限定 試し読み増量版】
【期間限定 試し読み増量版】「屹立させるまで帰れまセン!」暴走カップルに巻き込まれた伝説の元風俗嬢が美人教師に性教育!?一見、順調交際中の学園のマドンナ教師・鵜川遥香と同僚・羽賀祐一は’夜の問題’を抱えていた。そこに突如現れたのは伝説の元風俗嬢・からめる。彼女が施す’性教育’がふたりの運命を大きく変えていく!この物語は、性と真剣に向き合う先生たちの激闘の記録である!
元風俗嬢の新人教師・からめるが新しく赴任した学校で出会ったのは、勃起不全に悩む同僚教師のカップルでした。からめるは、二人のためになぜか奔走することになります。
斜め上のシチュエーションと展開に圧倒される、セクシーコメディ漫画です。作者は元々成人漫画を描いていたこともあり、肉体の表現力はお手のもの。イブニングの懐の深さ、企画力の高さに驚かされます。変化球のギャグ漫画を読みたい方にぜひおすすめの作品です。
ゲレクシス(全2巻完結)
鬼才による、カフカ的不条理に満ちた連載作品!
40歳のバームクーヘン屋の職人・大西たつみが突如恋に落ちます。しかし彼が恋した相手は他人には見えず……。
『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』など、個性的な作品を次から次へと発表し、漫画界へ影響を与え続けた古谷実。2023年3月時点では、本作が最後の発表作になります。
カフカ的不条理がキャラクターに襲いかかる独自の文学性と、その中で繰り広げられるユーモア性はこの作家独自のもの。冒頭からたたき込まれる名言のオンパレード! その独自の言語センスは、クセになること間違いなしです。
絶望感と生きる希望を同時に読者に叩きつけてくる濃厚な古谷ワールド。全2巻完結のため、古谷実の入門作としてもおすすめです。
空電の姫君(全3完結)
『イエスタデイをうたって』『羊のうた』の冬目景によるオルタナバンド漫画!
伝説のロックバンドのギタリストを父に持つ女子高生・保坂磨音が、アマチュアバンド活動を通じて、青春の日々を過ごしていきます。
『コミックバーズ』で連載していた『空電ノイズの姫君』の続編に当たります。登場人物たちの会話が丁寧に繰り広げられ、スローテンポな雰囲気の中にも豊かな情感が込められています。バンドも人間の集合体である以上、人間関係に悩みはつきもの。それぞれがお互いの気持ちや過去と対峙して成長していきます。少しの衝撃で解散してしまいそうな脆さを抱えながらも前進しようとする本作は、ヒューマンドラマとしても読み応えたっぷりです。
画集を読んでいるような演奏シーンで、描かれる見事な表情にも魅了されます。どこか郷愁漂うバンド漫画や、音楽漫画を読みたい方にもおすすめです。
誰も知らんがな
おんぼろ旅館を再開しようと悪戦苦闘をする三姉弟の姿を描いた旅館漫画です。関西弁で繰り広げられる会話のテンポとユーモアが魅力の本作。たくさんのキャラクターたちが、入れ替わり立ち替わりユーモアあふれる会話を繰り広げていきます。ボケ倒しのグルーブ感に驚かされます。
本作は『誰も寝てはならぬ』や『大阪豆ゴハン』の漫画家・サライネスによる最新作。『イブニング』休刊後はコミックDAYSで連載開始となりました。ゆるくて世話焼きでお喋りなキャラクターたちが繰り広げるこのリズム感に乗ってみませんか?
数々の名作を生み出した『イブニング』
おすすめの『イブニング』漫画特集はいかがでしたか? 今回ご紹介した作品は、どれも『イブニング』の歴史を彩った名作漫画ばかりです。
20年以上、熱血スポーツ漫画やSFなど幅広いラインナップを揃えながら、芯のある作品が多く連載され、多くの漫画ファンから愛された青年誌『イブニング』。その歴史の中で生まれた名作たちは、時が経っても色あせることはありません。DMMブックスの『イブニング』のページでは、その他の人気作もまとまっていますので、併せてぜひお楽しみください。
DMMブックスには、無料で試し読みできる作品や、キャンペーン中の電子書籍がたくさんあります。無料のビューアーとアプリで簡単に読むことができるので、ぜひお試しください!