ヒット作続々輩出!ヤンマガ編集白木さん 編集の極意にせまる独自取材

 ヤングマガジン編集部の編集・白木さんは、担当作の『満州アヘンスクワッド』が200万部を突破、『魔女と野獣』が2024年1月にアニメ化などヒット作を続々輩出。その他、講談社の漫画賞で新人作家の登竜門「ちばてつや賞」に担当の新人作家が多数入賞するなど、新人の発掘に精力的なことでも知られています。今回は、そんな敏腕編集者白木さんに、制作秘話や具体的な編集手法まで、独自インタビューでせまりました。編集者の仕事の奥深さが垣間見える内容なので、ぜひ最後までチェックしてみてください!

『満州アヘンスクワッド』は2話目で手ごたえを感じた

ヤングマガジン編集部・白木氏の主要担当作品の単行本6冊。上段は左から『魔女と野獣』『満州アヘンスクワッド』『エロチカの星』。下段は左から『ホームルーム』『生贄投票』『推しが辞めた』

——この度は、インタビューの機会をいただきありがとうございます。今回、白木さんがご担当されている『満州アヘンスクワッド』が累計発行部数200万部を突破されました。おめでとうございます。どういった経緯で作品の連載がはじまったのでしょうか?

ヤンマガ編集白木(以下白木) 元々ドラッグものに需要があることはわかっていたので、何か企画を作りたいと思っていました。ただ、普通にやるだけでは海外の麻薬ドキュメンタリーやNetflixのドラマの面白さに勝てない。そこで企画の新規性を出すために、ドラッグ要素と何か別の要素とのかけ算が必要だなと考えていたんです。

そんな中、原作の門馬司さんが前作『首を斬らねば分かるまい』(華族を主人公にした明治ロマン)でアヘンを取り上げていたのを思い出しました。そのときにアヘンを扱った「ドラッグ×歴史もの」のかけ算が閃き、企画書をまとめて門馬さんに持って行って、門馬さんがドラッグものがお好きだったこともあり、すぐにご快諾いただきました。実は企画書の段階では明治時代の東京を舞台にしていたんですが、門馬さんが「アヘンなら満州が舞台でどうですか?」と仰ってくださったことで、舞台が満州になりました。あのアイデアでより尖った企画にすることができたと思います。

首を斬らねば分かるまい (1)

首を斬らねば分かるまい (1)

明治四年。特権階級「華族」の御曹司・幸之助は、「一度も勃ったことがない」という悩みをひた隠して生きてきた。そんな中、幸之助は江戸時代から続く首斬り家の当主・沙夜と出会う。彼女の首斬りを目撃した時、幸之助の中で、どす黒い何かがうめき出す!!

——本作の連載がはじまってから、手ごたえを感じた瞬間はありましたか?

白木 明確に2点ありました。一つ目は、2話目の反響が良かったことです。1巻の表紙に描かれている麗華(リーファ)が2話目で登場して、主人公・勇にビジネスを組まないかと持ちかけてくる。連載を作る時は「1話目より2話目を面白くしなきゃいけない」とよく言われるのですが、2話目で狙った反響がしっかり来て、その時にこれはいけると確信を持ちました。

——反響というのは、読者アンケートやウェブ上の口コミでしょうか?

白木 ウェブの反響も大きかったし、知り合いの編集者からも「『満州アヘンスクワッド』おもしろいね!」って言ってもらえたので、自信につながりましたね。
手ごたえの二つ目は、リーファの登場後に「バータル」と「リン」というキャラクターが登場した時です。その際に「ストーリーが進むにつれてキャラクターを増やしていく」という、ストーリーの縦軸が確立しました。いわゆる『ONEPIECE』スタイル——「場所を転々として、訪れた先々で問題を解決し、仲間を増やしていく」というかたちが見えたときに、作品が軌道に乗ったと感じました。

『満州アヘンスクワッド』2話より。麗華は主人公・勇の命を助け、アヘン密売のパートナーにならないかと誘う。
『満州アヘンスクワッド』2話より。麗華は主人公・勇の命を助け、アヘン密売のパートナーにならないかと誘う。



——歴史的・民族的背景が異なるキャラクターが仲間になって、多国籍的な仲間が一つの目標を目指すスタイルは、確かにストーリーが進むほど面白さが増していきますね。

白木 ちなみに、最初バータルは出る予定じゃなかったんですよ。本編では熱河省でアヘンを生産していますが、当初は熱河に行く予定もなかったんです。生産地をどこにしようかと話していた中で、「アヘン生産が盛んなのは熱河省だ」「熱河省にはモンゴル民族が住んでいる。それならモンゴル人のキャラクターを出そう」といった打ち合わせの流れで生まれました。

——構想や目的地のようなものは門馬先生と決めていますか?

白木 最終的にとある事件に至るまでは絶対にやると決めています。ただ、そこはまだ言えません(笑)。楽しみにしていただければと思います。

満州アヘンスクワッド (1)

満州アヘンスクワッド (1)

「満州で一番軽いものは、人の命だ」時は昭和12年。関東軍の兵士として満州にやってきた日方勇は、戦地で右目の視力を失ってしまう。「使えない兵隊」として軍の食糧を作る農業義勇軍に回され、上官に虐げられる日々を送るも、ある日農場の片隅でアヘンの原料であるケシが栽培されていることに気づく。病気の母を救うためアヘンの密造に手を染める勇だったが、その決断が自身の、そして満州の運命を狂わせていく…。

『魔女と野獣』は編集としての力量を問われる

——他のご担当作ですと『魔女と野獣』も大人気で、2024年1月にはアニメ化が予定されています。
『満州アヘンスクワッド』は『週刊ヤングマガジン』、『魔女と野獣』は『月刊ヤングマガジン』と掲載誌は異なります。白木さんは両雑誌の作品に携わっているのでしょうか?

白木 ヤングマガジンは編集部の体制として、週刊・月刊・コミックDAYS・ヤンマガWebという4つの掲載媒体があります。ただ媒体毎にメンバーをわけていません。そのため、各媒体の作品を同時並行で担当しています。

——『魔女と野獣』は現代に魔術が普通に存在・発展している世界観の中で、背景にある「魔女」の設定が少しずつ開示されるダークファンタジーですよね。

白木 『魔女と野獣』は、元々1−2話目が存在していた状態で、3話目から担当に入りました。当時の『ヤングマガジンサード』のチーフから、「白木、やってみない?」と話が来まして。引き継いだ際、作者・佐竹幸典さんは新人作家でして、僕は部内で一番新人さんを担当していたので、それを見て任せてもらえたのかなと思います。

魔女の呪いを受けた少女・ギドは、宿敵の魔女を追って魔術師アシャフと共に魔女にまつわる事件を解決していく(1巻1話より)

魔女の呪いを受けた少女・ギドは、宿敵の魔女を追って魔術師アシャフと共に魔女にまつわる事件を解決していく。(1巻1話より)


——2016年に連載が開始し、2024年1月にアニメ化されますね。長年ご担当されていますが、編集者としての作品の印象を教えてください。

白木 『魔女と野獣』は、編集としての力量を問われる作品だと思っています。例えば『満州アヘンスクワッド』は、話作りにコミットして作家さんと一緒に考えていきます。割と打ち合わせがテンポよく進むんです。でも、『魔女と野獣』のようなファンタジー作品は、ストーリー作りの手助けをするというよりは、とにかく質問するに徹して、佐竹さんの描きたいものや伝えたいものを引き出すことが大事だと思っています。打ち合わせに時間がかかるので、よりお互いに忍耐が必要というか。
どういう展開が見たいかや、キャラにどういうことを期待するかはお伝えしますが、それよりも、「世界観を読者にわかりやすく伝えるためにどう工夫するか」「この回で何を描きたいのか」ということを作者さんから引き出す必要があります。それに加えて、ファンタジーはネームの内容が難しくなりがちなので、より伝わりやすくブラッシュアップするお手伝いが僕の仕事ですね。

魔女と野獣 (1)

魔女と野獣 (1)

舞台は’魔女’が人々の崇拝を集める街――。そこに現れたのは、棺桶を背負う男と、獣の目をした少女。彼等の求める獲物は’魔女’、そのただ一つ。悪しき’魔女’と飢えた’野獣’が出会う時、華麗にして苛烈な戦いの幕が開く! 新進気鋭の才能が描く、未踏のピカレスク・ファンタジー!!

まだ知られていない才能を世に送り出す楽しさ

——新人作家さんとの関わり方という点ですと、連載以外で今温めている企画だったり、やりとりをしている作家さんはどのくらいの数になりますか?

白木 連載準備中の企画はいま3本で、新人さんは80人ぐらい。新人さんと仕事をしているときが一番楽しいです。

——その楽しみというのはどの辺りにありますか?

白木 「原石を磨く」ような仕事が楽しいです。この人の才能はまだ自分しか知らないという状態から、才能を世に出せる状態まで持っていく作業がすごく楽しい。
新人さんから出てくるものって全然予想がつかないですし、「こんな表現ができる人がまだ世の中に眠っているんだ!?」という瞬間に接することができる喜びもあります。

——予想外の表現のなかで、記憶に残っている作品はありますか?

白木 オガワサラさんの『推しが辞めた』が正にそうでした。第1話のラストシーンで主人公が推しが辞めたことを知る瞬間があるんですが、その心理描写が素晴らしいのでぜひ読んでいただきたいです。それ以外にも、第25話で印象に残っているセリフがあります。「誰かのために生きるのって楽だからオタクしてたのかもしれない。自分のために自分の人生生きるのって凄い疲れるから」というセリフ。その感覚は、自分からは絶対に出てこないもので、推し活に人生を懸けてきたオガワさんだからこそ描けるセリフだと思いました。自分の価値観を揺るがす言葉だったので、今でも記憶に残っています。

推しが辞めた (1)

推しが辞めた (1)

25歳、デリヘル嬢。推しは「6hourS」のミクくん。私にとって、ミクくんは世界のすべてだった。ファンを大事にしてくれる彼のためなら、いくらだって稼いじゃう。でも、人生を懸けて推してきたミクくんは、ある日突然脱退した。なぜ? どうして? その理由を追い始めた私は、ある「禁忌」を知ることになる――。風俗嬢が推しの辞めた真相を追う、衝撃のアイドルサスペンス!!

——ちばてつや賞のヤング部門において、第87回の受賞作21作品のうち5作品が白木さんの担当作品とうかがっています。受賞された作家さんの中でも最近特に印象的だった方はいますか?

白木 もちろん全員素晴らしい新人さんですが、独自性という部分で最も才能を感じたのは『銀の弾』の南さん。ちょっとやそっとで出てくる才能ではないです。もちろん手を入れた部分もありますが、そもそも最初の段階で世界観の土台ができあがっていました。この人は本当に天才ですね。

南「銀の弾」(ちばてつや賞ヤング部門・第87回優秀新人賞作品。コミックDAYの閲覧ページはこちら)。

——実は、白木さんへのインタビューの話が持ちあがった際、(どくしょ部の)チームメンバーの間で「あのちばてつや賞作家をすごく育てている白木さん!?」といった反応が返ってきました。実際に調べてみたら、本当に多いですね。

白木 ちばてつや賞は毎年2回あって、最終選考には上位5本だけ残るシステムなんですが、おそらく入社して10年間で最終選考に担当作を残せなかったのは3回しかないです。とにかく、ひたすら新人さんに恵まれつづけています。

——新人作家さんと仕事をしていく中で、印象に残ったエピソードはありますか?

白木 印象に残っている新人さんでいうと、『ホームルーム』『ドラQ』の千代さんです。僕が一年目の頃からご一緒していて、最初に漫画の持ち込みに来ていただいた際、お土産に博多の明太子を持ってきてくれたんです。「どうぞどうぞ」「(えええ……!)」って(笑)。すごく変わった新人さんだなって思いました。 作品の内容も結構変わってたんですが、めちゃくちゃおもしろい人で、そこから担当につかせていただきました。その後は「シェアー」という作品でヤンマガの月間新人漫画賞佳作を、「少女と銀杏」という作品でちばてつや賞の優秀新人賞をとるまでスムーズに進みました。
でも、実は『ホームルーム』で連載が開始するまでには、そこから2年近くかかりました。もちろん千代さんは大変だったと思うし、僕も責任を感じてしまって。自分の実力のなさに申し訳なくなった時もありました。
その期間は、千代さんが連載をとるまで髪を伸ばす願掛けをやっていて。お会いする度にどんどん髪が伸びていく(笑)。そして『ホームルーム』連載が決定して、編集部で断髪式をおこなったんです。

——だ、断髪式……!?

白木 編集部で切った髪を、へその緒みたいに箱に大事にしまって……。あのときはすごくすっきりしましたし、『ホームルーム』もヒットして報われました。連載中の『ドラQ』もありますし、今後も長いお付き合いになると思ってます。

ホームルーム (1)

ホームルーム (1)

毎日クラスで不快なイタズラを受け続けているイジメられっ子の女子高生・幸子。犯人は不明。でも、実はそんな日々もあんまり苦じゃない。なぜならいつだって憧れの愛田先生が彼女を助けてくれるから。爽やかでイケメン、そして正義感の強い先生はいつだって皆の人気者。もちろん幸子にとっては特別なヒーロー。でも、そんな愛田先生にはある隠された’秘密’があり‥‥? 異才の新人・千代が描く、戦慄の学園サイコ・ラブ!

ドラQ(1)

ドラQ(1)

私、人間に「恋」をしています――。掟を守り正体を隠しながら、女子高生として人間界で暮らす吸血鬼・黒崎アメリ。そんな彼女が恋に落ちたのは、喧嘩ばかりしているクラスメイト・パコだった。正体を隠しながらも、パコに思いを伝えるアメリだったが、ある事件がきっかけで吸血鬼であることがバレてしまい‥‥!?『ホームルーム』の奇才・千代が描く、禁断の’吸血’ラブストーリー!

鍛えられたサブ担当編集時代

——白木さんが編集者を志したきっかけは何かあったのでしょうか?

白木 昔は漫画家になりたかったんですが、いくつか描いてみたものの正直あまり才能がなくて、中学校くらいで見切りをつけました。そこから新卒の就活段階で「やっぱり漫画と関わる仕事がしたい!」と改めて思い、講談社を受けて内定をもらいました。あの時は人生の分岐点でしたね。もし落ちていたら今頃は商社マンでした。

——では、最初から漫画の部署への配属を希望されていた?

白木 完全に漫画希望でした。でも、配属先を決める人事面談のときに「君、ラグビー部出身だからフライデーだね」って言われて(笑)。今思えばただの冗談だったんですが、当時は焦りました。志望部署と違うことにだいぶ落ち込んだのですが、配属先通達の当日に「ヤンマガ」って言われました。
実は当時、ヤンマガには馴染みがなかったんです。僕がそのとき主に読んでいたのは、マガジン、モーニング、スピリッツ、ジャンプ。配属時には不安もありましたが、でも、いざ入ったら楽しかったです。

——馴染みがないジャンルの作品を担当していくにあたって、どんな経験やノウハウを積み重ねたのでしょうか?

白木 講談社の場合は編集体制が少し特殊で。青年誌や少年誌は、1作品に二人担当がつくサブ担当制になることが多いです。なので、1年目の頃はサブ担当としていくつか作品につかせていただいて、先輩編集者や作家さんからノウハウを吸収しました。
特にお世話になったのは、『代紋TAKE2』『三億円事件奇譚モンタージュ』などの渡辺潤先生です。先輩の編集者だと鈴木綾一さん。『クダンノゴトシ』という作品のときに、そのお二人からノウハウを叩き込まれました。
鈴木さんは優しくも厳しい人で、打ち合わせ中にダメな意見を言うと「つまらない」とばっさり斬られます。でも打ち合わせの後はよくご飯に連れてってくれて、優しく教えてくれたり、今後に向けてのアドバイスもくれました。ただ打ち合わせで全然通用しなかった時は僕も悔しくて、それから毎週アイデアを5個〜10個考えていって、打ち合わせの場で喋るようにしました。渡辺潤先生はとても優しい人ですが、編集のアイデアを鵜呑みにはしない人なので、本当に良いと思ったときしか「それいいね」とは言わないんです。渡辺先生からはじめて「いいね」って言われた時に、手ごたえを感じられました。お二人にはたくさんご迷惑をおかけしましたが、今でも育ててもらった恩義を感じています。
あの頃は大変でしたが、その分鍛えられました。現在並行して7作品の連載を担当していますが、1-2年目のことを思えばそれほど大変には感じません。

——白木さんのご担当作品は、『週刊ヤングマガジン』や『月刊ヤングマガジン』、コミックDAYS、ヤンマガWebと、連載先がわかれています。作家さんの特性を考慮して連載媒体を決めているのでしょうか?

白木 本誌(『週刊ヤングマガジン』)への掲載を目指すのがまず一番ですが、作品や作家の適性によっては他の掲載先をすすめることもあります。人によっては週刊連載が難しい環境の人もいますし、なにより健康第一です(笑)。

DAYS NEOは編集から作家へ積極的にアプローチできる

——現在、白木さんはコミックDAYSのヤンマガ班チーフを務めていますが、どういった経緯でDAYS NEOに関わるようになったのでしょうか?

白木 僕はDAYS NEO自体の運営などには関わっていないんです。さっき話した先輩編集の鈴木綾一さんが立ち上げたサイトなので。

——DAYS NEOでは積極的に、100作品以上にコメントを残されていますよね。その中でも伸びしろを感じる方はいますか?

白木 コメントをさせていただいた新人さんは全員才能があると思っています。ちばてつや賞の受賞者も、DAYS NEOで出会った方が多いです。

——新人作家と編集の接点というと、原稿の持ち込みや出張編集部のイメージがありますが、今はウェブ上での割合が大きくなっているんですね。

白木 僕の場合は、ここ3年くらいだとかなりの割合がDAYS NEOですね。もちろん持ち込みきっかけや、新人賞受賞作家の担当につくこともあります。ただ、それらの場合は、編集からすると機会を待たないといけないんです。賞の受賞者だと、誰が担当するかという編集者同士の競争にも勝たないといけない。
一方、DAYS NEOの場合は編集者がいつでも好きにコメントができるし、コメント次第で作家さん側から編集を選んでもらえる。圧倒的に新しい才能と出会いやすくなりました。

DAYS NEO上の白木さんプロフィールページより。白木さんは精力的に作家さんへコメントやアドバイスを残している

DAYS NEO上の白木さんプロフィールページより。白木さんは精力的に作家さんへコメントやアドバイスを残している。


——新人作家さんに接する際、重視するポイントはありますか?

白木 何か一つ突出しているスキルがあるかどうかです。「絵がすごくいい」とか「ワードセンスがある」とか。あとは「読者を驚かせる意図があるか」ですね。僕の中では「読者を驚かせる意図がある」の比重は大きいです。

また、個人的に一番惹かれるのは「心理ネーム」ですね。セリフの力や、心の中の表現の仕方。画力はいくらでも上げられるんですが、言葉のセンスはなかなか上げづらいところがある。言語感覚は後から磨くのが難しいので、自分の言葉を明確に持っている作家さんにはよく惚れてしまいます。

新人のうちは「伸ばす」ことに徹する

——『満州アヘンスクワッド』は白木さんが門馬先生に企画提案していたとのことでしたが、新人作家とデビュー済みの先生とで企画の立て方は違いますか?

白木 作家さんによりけりですが、連載経験の有無で変えることはあります。
新人さんの多くは読み切りの経験しかないので、連載としてのストーリーの回し方は未知のゾーンです。企画の立て方はかなりパターンがあるんですが、まずは「ログライン」を書いてもらうやり方が多いです。一行であらすじを書いてもらって、いくつか書いてもらった中から企画を膨らませていきます。一行で面白い企画であることが重要だと思うので。
他にも、好きな映画を作家さんと僕でお互い共有し合うこともあります。担当についた時は必ず好きな映画や漫画、小説などを10個教えてもらうようにしていて、教えてもらったらすぐに観て、好みの傾向を掴むようにしています。作家さんの好みだったり描きたい題材を把握しているだけでも企画を立てる時にすごく楽になるので。
あとは、僕はよく「話の型」という言い方を使います。たとえば「仲間を集めていく」などの好きな話の型って誰しもあるはず。その型を見つけて作家が得意な題材とかけ合わせると、うまくいく事が多いですね。

——例えば、原作者を名乗れるレベルでの関わり方を100、全く関わらないのを0としたときに、白木さんがストーリーに関わる度合いは数字で表すとどのくらいでしょうか?

白木 作品によってバラバラですね。『魔女と野獣』は、作家さんご本人が99、僕は1と言ってしまっていいくらい。作家さんの中から引き出すことが僕の役目なので。
一方、『満州アヘンスクワッド』になると、僕がストーリーに関わるのは20〜30くらいです。70〜80は、門馬さん。『ホームルーム』は2Pずつお互いにアイデアを出し合うという打ち合わせのやり方で、面白かった方の意見が採用されるという形だったので、50:50くらいだったと思います。

——作家さんにあわせて変えているんですね。

白木 作家さんがやりやすい形が一番なので、基本編集側はそこに合わせるべきだと思ってます。昔は作家さんが楽になるようにとプロットを書いてた時期がありましたが、作家さんが自分なしで漫画を描けなくなったらよくないと思ったので止めました。多くても50:50以上は出ないようにしています。

——「作品を伸ばすこと」と「作品を売る」ことは、やや異なるノウハウが必要かと思いますが、その違いについて意識していることはありますか?

白木 「売る」と「伸ばす」の違いは難しいですね。僕の場合、新人のうちは「伸ばす」ことに徹すると決めています。描いてもらう読み切りも「売る」ためのパッケージングじゃなくていい。例えば、学園が舞台のヒューマンドラマは世の中に溢れているので、連載企画としては戦いづらいですが、読み切りだったら全然やっていいと思います。基本的に読み切りは読者の方がお金を払って買うものではないので、自分の作家性をしっかり出して、武器になる部分を磨くものとして使って欲しいです。
でも、本として「売る」場合は話が変わってきます。毎月1000点以上の漫画が世に出る中で、読者の方に手に取ってもらうには「まだ世の中にない要素」が必要です。新人さんには何がその人の武器になるのかを必ずお伝えするようにしてますし、企画に対しても何かしらの掛け算が必要という会話もするようにしています。作家としてある程度まで伸びたら、企画を一緒に練って「売る」方向にシフトするイメージです。

——作家の状況や、成長パラメータに応じて調整しているんですね。

白木 もちろん「売る」方が断然難しいですが(笑)。

——その難しさとは?

白木 基本的に新人さんを世に出す時は、絶対の自信を持っています。僕は自分の新人さんが皆天才だと思っているので。ただその分、思うようにヒットしなかったら自分の甘さを痛感しますね。
一般的に「売れ線の題材」と近いものをやれば、売れやすいですよね。最近だと異世界ものだったり。でも売れ線をやるのも正解ですが、作家さんがやりたいものを極力尊重したい。直近だと、『キョンシー怪譚BLOOD』がそうです。「これだったら絶対に売れるよね」という企画ではなく、作者の杪夏さんの好きなものが存分に詰め込まれた企画で、唯一無二の世界観になっていると思います。こういう作者の好きな題材で勝負する時は、基本1塁ヒットではなくホームランを狙う感覚なんです。ただそういうときは概して大振りになるので、少しでも当たる確率を上げなければなりません。そのために読者が好きな要素を狙って入れていく必要もある。このバランスは、編集者として強く迷う部分です。作家さんがやりたいもの、まだ世にないものを出したいと思いながら編集をやっているので。ただ一つ言えるのは、売れなかったら100%編集が悪いということ。作家さんは絶対に悪くないです。

——ちなみに、いま白木さんが注目している作品はありますか?

白木 今は竹屋まり子先生の『あくたの死に際』がめちゃくちゃ面白いですね。まだ単行本は出ていませんが、「小説家になる」という呪いに向き合う主人公のお話で、ここ最近の「才能」を扱った作品の中ではピカイチだと思います。自分の才能と向き合う人間の絶望と成長を描いた素晴らしい作品です。

——最近のおすすめの映画なども、良ければ教えてください。

白木 2023年で面白かったのは、是枝裕和監督の『怪物』ですね。去年だとインド映画の『RRR』や『トップガン・マーヴェリック』はもちろん、さかなクンの自伝が原作の映画『さかなのこ』、80年代を舞台にした少年2人のジュブナイル映画『SABAKAN』が良かったです。『SABAKAN』の監督・脚本は、Netflixで話題になった相撲ドラマ『サンクチュアリ』の脚本でも話題になった金沢知樹さんです。

電子書籍は読者との距離が近い

——今回DMMブックスという電子書籍書店としてお話しを伺っていますので、電子書籍に対して思っていることがあればお聞きしたいです。

白木 一番ありがたいのは、すぐ買える・すぐ読めること。読者との距離がとにかく近くなりましたね。試し読みができるようになったのも大きい。買うまでおもしろいかわからなかったのが、一回読んでもらってから買っていただけるようになりました。旧作や絶版が読めるのもいいですね。一読者としてもうれしいし、作家にお金が入り続けるようになっている部分も大きなメリットだと思います。
一方で、紙を想定して作ると電子では読みづらくなることがあります。『満州アヘンスクワッド』も「文字が小さくて読みづらい」とたまに言われたり……。『ホームルーム』は意識的に文字を大きくしていますが、見開きに電子の画面が適応できないこともあったり、こればかりは非常に難しいですね。

海外好きな一面と仕事への影響

——つい先日、白木さんは海外出張に行かれていましたね。

白木 以前担当した学慶人さんの『ボーイズ・オン・ザ・ライオット』という作品のトークショーがアメリカで行われたので、随行させていただきました。場所はオハイオ州のコロンバスで、CartoonCrossroadsColumbus(CXC)というイベントです。

ボーイズ・ラン・ザ・ライオット (1)

ボーイズ・ラン・ザ・ライオット (1)

身体は女、心は男。自分の性別に悩む高校生の凌。2年生になり、スカートを強制されることに嫌気がさしていた頃、彼のクラスに派手な恰好をした留年生・迅が現れる。ヒゲを生やし、ピアスを空け、長い髪を一つに纏め、自由奔放に生きる姿は自分とは真逆そのもの。翌日、凌のもとにやってきた迅はこう言うのだった。「俺と一緒にブランドやんねェ!?」名もなき少年たちによる、革命を起こす服づくりが始まる!!

——『ボーイズ・オン・ザ・ライオット』はLGBTQの問題を扱っていますし、アメリカで人気というのも納得ですね。アメリカ出張はいかがでしたか?

白木 海外の読者と出会える経験っていうのは貴重ですし、僕も担当者として読者に会えて嬉しかったです。あと、実は海外が大好きなんです。『ラージャ』のインド、『満州アヘンスクワッド』の中国、『東独にいた』のドイツなど、担当作品が海外を舞台にした作品が多いのは、海外好きの一面も影響していると思います。

——以前Twitterで『満州アヘンスクワッド』に出てくるロシア語を解説されていましたが、大学時代にロシア語を専攻されていたんでしょうか?

白木 大学は外国語学部でロシア語専攻でした。ロシアにも1年間留学していたので、『満州アヘンスクワッド』のロシア語のセリフは僕が翻訳してます。

編集人生としての目標

——最後に、白木さんの今後の展望についてお聞かせいただきたいです、

白木 スポーツ漫画をやってみたいと思っています。企画はまだ準備できていないのですが、元々スポーツ漫画が大好きで、高校時代はハンドボール部、大学時代はラグビー部だったので、いつかその二つのスポーツ漫画を立ち上げるのが夢です。講談社に入ったのも、『あしたのジョー』から続くスポ根文化があって、リアルなスポーツ漫画を作る社風が好きだったからですね。採用面接でもそんな話をした覚えがあります。いつかスポーツ漫画でヒットを出すのが編集人生の目標です。

——読者やDMMブックスのユーザーに向けて伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

白木 担当している新人さんたちは、本当に素晴らしい才能の持ち主ばかりなので、ぜひ読んでいただきたいです。今後もたくさん新人作家の作品を世に出していきますので、作家さんたちを応援していただけると嬉しいです。
あとは、このインタビューを読んでいただいた方は、ぜひDMMブックスのユーザーさんになってください!

ヤングマガジン編集部・白木氏。2023年10月撮影。

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